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  糖尿病専門医 井上 洋 のコラム Vol.1

  『生き甲斐』

 「あなたの生き甲斐は何ですか?」 私が患者さんに時々する質問です。別に教えて頂かなくても良いのです。生き甲斐について考える機会を持っていただくことに意味があります。

 糖尿病外来に来る患者さんの多くは血糖値やHbA1cなどの数値に気をとられていますが、私達医療スタッフは、血糖コントロール状態に加え、糖尿病合併症の有無や、進行程度をチェックし、合併症の予防や進展防止に気を配ります。

 何故なら、糖尿病合併症が、人生のいろいろな楽しみや喜びを奪っているからです。「定年退職したら夫婦で海外旅行を楽しもうと思っていたのに、脳梗塞で半身麻痺し、出かける勇気がなくなってしまった。」 「温泉巡りが趣味だったけれど、心筋梗塞を起こしてからは救急車がすぐに来ないような山間の温泉地には怖くて行けなくなった。」などの話を聞くことがあります。

 もちろん、健康でなくても素晴らしい人生を送ることができます。同様に、お金がなくても素敵な人生を送ることができます。しかし、何かを為そうとするとき.お金は無いよりもあった方が便利です。健康も無いよりはあった方が有利です。お金と同様、健康も何かを為そうとするときの大切な資本になります。

 糖尿病の食事療法や運動療法は、毎日毎日、何年も何年も継続しなければなりません。しかし、人間ですから、成果が目に見えないものを継続することは大変困難です。たまには、大宴会や豪華ディナーもしますし、投げ遣りになることもあります。でも、「このままずるずる羽目を外したままではいけない。今日から、また食事療法を頑張ろう。」と思いなおすには、生き甲斐を持っている方が有利です。成し遂げたいこと、守りたいことがあれば、健康を維持するための努力を継続できます。診療所や病院に来たときには、「自分の生き甲斐って何だろう?残された人生で成し遂げたいこと、守りたいことは何だろう」と一度考えてみてください。

 さて、私達医療スタッフの仕事は、患者さんの生き甲斐を大切にし、患者さんがより良い人生を歩むのを手助けすることです。この考えは、糖尿病の治療に限らず、全ての疾患の治療に通じます。医療スタッフは、患者さんとともに患者さんの人生を守っていくために、治療戦略を一緒に考え語り合う戦友のような存在です。決して上官ではありませんので、治療方針に無理や疑問がある場合には、遠慮無く相談してください。一緒に糖尿病治療のより良い作戦を練りましょう。

井上 洋 

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